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電王戦の理想的持ち時間

以下のブログ記事が面白い考察だと思いましたので、反論してみました。

スマフォの将棋ソフトの棋力の限界はどのぐらいなのか
http://d.hatena.ne.jp/yaneurao/20140330

スマホじゃなくて、スマフォとしているところが素敵ですねw
スマフォでの棋力に関しては分からないので、持ち時間の考察に対する反論です。

(反論1)人間とソフトの思考の違い
ソフトの思考のメインは、探索(読み)と評価値(盤面評価)ですが、プロ棋士の場合は、それらに加えて、

経験からくる直観(探索無しの瞬時の形勢判断や詰みの発見など)
勝ちやすい形の選択(形勢が良くても明確な勝ち手順が見つけにくい局面の回避)
不利な場合の勝負手の発見(人間心理を利用した局面の複雑化)

などがあると思います。

ですので、探索量のみに基づいて、人間の長期記憶の限界による棋力の伸びの限界を論ずるには無理があります。
実際、プロの発言から、何時間も長考する場合は、同じような読みを繰り返して、手の選択を悩んだり、もっといい手を探したり、見落としがないかをチェックしたりしています。
(ソースまでは覚えていませんが、プロでなくても、人間が長時間考える場合は、そうなるものです。)

つまり、持ち時間の増加による棋力の増大は、探索量によるものだけではないですし、それどころか人間はすでに終了した探索を何度も繰り返すというソフトならあり得ないことをします。
しかし、それはミスを防いだり、手の確認をしたりするのに必要であり、人間にとっては非常に重要な時間の使い方です。

言い換えれば、人間の棋力の増大は、量的観点だけでなく、質的観点も重要になります。

(反論2)人間は疲れる
プロ棋士は持ち時間を使って、常に思考しているわけではありません。
10分考えた場合と、20分考えた場合で、同じ探索量だったとしても、20分の方が読み抜け等のミスが生じにくいはずです。

(読み抜けた場合、その探索量は減りますが、その分、別の分岐を探索することになります。)
持ち時間が8時間とか9時間あれば、頭の休息にも使えますので、決して無駄にはなりません。

(反論3)人間は時間配分をする
プロ棋士は、重要な局面に時間を使います。
また苦しくなると、明確な答えが無い状態で、できるだけ差を広げられないように時間を使うことになります。
優勢の局面でも、局面が複雑で答えが見つからなければ、考慮時間を使うことになります。

ですので、電王戦での4~5時間程度の持ち時間では、序中盤に苦しくなったり、作戦勝ちしようとして、時間を使うと、どうしても終盤で時間が足りなくなります。
今回は事前貸し出し&修正不可なので、持ち時間は充分だと思いますが、仮にぶっつけ本番でのソフトの対局ですと、持ち時間4~5時間程度では、プロ棋士は終盤に時間を残すことを意識せざる終えないので、序中盤に充分に時間を使うことができません。
そこに時間を使ってしまえば、終盤に逆転を食らうので、人間が不利です。
だから、貸し出し無しやソフトの修正ありならば、2日制にすべきだと思っています。

そして、ソフトと比較して、同じペースで時間を使わない人間に対し、一手あたりの長期記憶の限界という観点から持ち時間を論じるには無理があります。
持ち時間が長ければ、それが無駄にならないように展開に応じて、配分をするのが人間の長所です。
つまり、特定局面において長考するのは、それだけの時間が必要なのであって、人間の探索の限界により、それが無駄になるわけではありません。

(反論4)将棋は一手が命取りになるゲームである
将棋が手の評価値の積み重ねで勝敗を決するゲームであれば、単純に思考時間に比例して強くなるでしょう。
しかし、一手の悪手が命取りになってしまうため、持ち時間が長くなるほど、一手の重要性が増し、逆転不可能な手を指してしまえば、それ以降は持ち時間がいくらあっても無意味になります。
そのような持ち時間の違いによるゲーム性の違いが考慮に入っていないと思います。

時間が短い場合は、確率の高い手を積み重ねれば勝率は上がるでしょう。
人間の方が悪手を指しやすいので、短い時間ではソフトになかなか勝てないですし、ソフトは最善手を指さなくても、悪手を避け、次善手を指しさえすれば、なかなか負けることはありません。

しかし、持ち時間が長くなり、人間のミスする可能性が低くなれば、ソフトの一手の緩手が敗着になりかねません。
つまり、ゲーム性の変化(一手の重要度が増す)により、持ち時間が長くなることによる人間の優位性が増すことになります。
今回の第3局が、いい例だと思います。

(反論5)序盤・中盤・終盤のアンバランス問題
ソフトは序盤が必ずしも弱いとは限らないですが、特定局面でガクンと弱くなるのが問題だと思います。
それは探索の深さの問題もありますが、探索を深くしても、現在のソフトの評価関数では、最善手を選べない局面もあると思います。

それに対し、人間は序盤・中盤・終盤、隙がありますが、ソフトの序盤ほどの隙はない。
そして、持ち時間に比例して、その隙は減りますが、ソフトの序盤は果たしてどうでしょうか。
ソフトが苦手としない局面ならば、持ち時間に比例して、棋力は上がることでしょう。
しかし、苦手な局面なら、いくら持ち時間が増えても、無意味になる可能性があります。

つまり、人間は序盤・中盤・終盤と比較的均等に強くなりますが、ソフトは同じように強くなるとは限らず、特に序盤は同じような曲線を描くのか、大いに疑問があります。
それを終盤でフォローすればいいかもしれませんが、その場合は先の反論4が関わってくることになります。

(反論6)棋士の個人差問題
森内竜王名人の場合、持ち時間が数時間程度の対局では、調子の悪い時に勝率5割程度に落ちることがあります。
ところが、タイトル戦で8時間や9時間あると、勝率7割以上の羽生先生にも勝ってしまいます。
持ち時間8~9時間で、並のプロ相手なら勝率8割以上あると予想されます。
それ以外の対局で勝率6割としたら、森内先生に関していえば、棋力増加のグラフは急激に増加しているはずです。

つまり、同じプロ棋士でも持ち時間増加による棋力の伸びは、かなり個人差があるということです。
マッハ田村先生なら、この増加がかなり減ることでしょうw
ですので、電王戦で、持ち時間に比例して、棋力が急激に増加する棋士を選ばないと、持ち時間が増えても人間の棋力はたいして変わらないという命題が成り立ってしまうので、連盟はもっと考えて選出してほしいものです。

反論は以上ですが、ならば、どう考察すればいいのか?
それに対する明確な答えを私は持っておりませんw
ですので、長い持ち時間で棋力を比較する上での目安にはなると思いますが、持ち時間5時間が理想ということに関しては、同意できないです。
長ければ長いほどいいと思いますし、タイトルホルダーならば、最低8時間は必要だという見解です。